「TRITONと何が違うの?」「今さら古い音源を使って何になるの?」そう思う方もいるかもしれません。しかし、声を大にして言わせてください。
KORG TRINITY VSTは、単なる「古いシンセの復刻」ではありません。それは、現代のプラグインシンセが失ってしまった「圧倒的な存在感」と「色気」を持っています。30年前、小室哲哉氏をはじめとするトッププロデューサーたちが愛し、音楽シーンを支配した「銀色の巨艦」。
そのACCESS音源が、当時のDACの癖までも完全に再現して現代のDAWに蘇りました。この記事では、実機を使い倒した筆者が、TRINITY VSTの全貌を徹底解剖。現代のトラックメイクにおける意外な活用法まで、その魅力を余すところなくお伝えします。
目次
KORG Collection TRINITY VST レビュー:30年の時を超えて蘇る「銀色の巨艦」
90年代後半、日本の、いや世界の音楽シーンをその「銀色の巨体」で支配したシンセサイザーがありました。 小室哲哉氏をはじめとするトッププロデューサーたちがこぞって愛用し、当時のヒットチャートのすべての曲に入っていたと言っても過言ではない伝説の名機。それがKORG TRINITYです。
長らくVST化が待ち望まれながらも、そのあまりにも複雑で特殊な設計ゆえに「再現不可能」とまで噂されていたこの巨艦が、KORG Collection 6の一部として、遂に現代のDAW環境に降り立ちました。 「TRITONと何が違うの?」「今さら古い音源を使って何になるの?」 そう思う方もいるかもしれません。しかし、声を大にして言わせてください。TRINITYは、単なる「古いシンセ」ではありません。それは、現代のプラグインシンセが失ってしまった「何か」を持っています。
圧倒的な存在感を放つそのサウンド、絹のように滑らかなフィルター、そして何よりも、音楽を作る喜びそのものを思い出させてくれる、あの独特の空気感。 この記事では、実機を擦り切れるほど使い倒した筆者が、VST版TRINITYの全貌を徹底的に解剖します。TRITONとの決定的なサウンドの違いから、現代の音楽制作における意外な活用法まで。これを読めば、あなたはすぐにでもこの「銀色の巨艦」を起動したくなるはずです。
伝説の「銀色の巨艦」復活!KORG TRINITY VSTとは?
1995年。Windows 95が発売され、デジタル革命の波が押し寄せていたその年、KORGは一台のモンスターマシンを世に送り出しました。ミュージック・ワークステーション、TRINITYです。 アルミダイキャストの重厚なボディ、当時としては画期的だったタッチパネル液晶(TouchView)、そして何よりも、他のシンセを過去のものにする圧倒的なサウンドクオリティ。それはまさに、次世代の到来を告げる「オーパーツ」でした。
音楽シーンを支配した「ACCESS音源」の秘密
TRINITYの心臓部に搭載されていたのが、ACCESS(Advanced Combined Control Synthesis System)音源です。 「アクセス」と名付けられたこの音源方式は、従来のPCMシンセ(サンプリングされた音を再生する方式)とは一線を画していました。 48kHzのサンプリング周波数で収録されたPCM波形は、当時の常識を覆すほどの高音質でした。しかし、TRINITYの真価は「素の波形」の良さだけではありません。その波形を加工する、変調(モジュレーション)能力の高さにあります。
ACCESS音源は、PCM波形に対して複雑な位相変調やウェーブ・シェイピングを行うことができました。これにより、単なる「リアルなピアノ」「リアルなストリングス」だけでなく、デジタルでありながら有機的で、どこか冷たくも美しい、TRINITY独自のサウンドキャラクターが生まれたのです。 VST版では、このACCESS音源の回路をプログラム上で完全再現しています。当時の開発エンジニアが監修に入り、実機の回路図とソースコードを元に、気の遠くなるようなチューニングを繰り返した結果、あの「魔法のような倍音」が蘇りました。
ただの移植じゃない!実機のDACから「空気感」まで完全再現
「ソフトシンセは音が細い」そんな通説を、このTRINITY VSTは笑い飛ばします。 開発チームが最もこだわったのが、DAC(デジタル・アナログ・コンバーター)の再現です。 ハードウェアのシンセサイザーは、最終的にデジタル信号をアナログ音声に変換して出力します。この変換回路(DAC)の特性こそが、その機種特有の「音の太さ」や「ガッツ」を生み出す大きな要因でした。
VST版TRINITYでは、当時の実機に使われていたDACの「癖」までもがモデリングされています。高域の独特なロールオフ、低域の飽和感。これらをシミュレートすることで、DAW上で鳴らした瞬間に「あ、これ実機の音だ」と錯覚するほどの空気感を再現しています。 実際に鳴らしてみるとわかりますが、イコライザーで補正しなくても、音が前に飛んできます。ミックスの中で埋もれない、圧倒的な「実在感」があるのです。
ファン感涙!全拡張ボード(M1、ソロシンセ等)を完全収録
TRINITY実機ユーザーにとって涙が出るほど嬉しいのが、全ての拡張ボード音色が収録されている点です。 実機では、本体背面のフタを開けて、高価な拡張ボードを追加購入して差し込む必要がありました。
- Solo-Tri: KORG Prophecy相当の物理モデル音源(MOSS音源)を追加するボード。あの独特なリードシンセ音が手に入ります。
- S-DI: 物理モデルドラム音源など。
- M1: 伝説のM1ピアノやM1ストリングスを追加。
これらの拡張音源に加えて、TRINITYのラック版である「TR-Rak」にのみ収録されていた追加バンク(Type C/D)も網羅されています。 つまり、このVSTひとつで、当時数十万円をかけなければ揃わなかった「完全体TRINITY」が手に入るのです。容量制限も、接触不良の心配もなく、すべてのプリセットを瞬時に呼び出せる。これは現代のDTMerに許された特権と言えるでしょう。
TRITONとは何が違う?TRINITY独自の「美学」
KORG Collectionには既に、TRINITYの後継機であるTRITON(トライトン)が含まれています。「TRITONがあるなら、TRINITYはいらないのでは?」そう思うのも無理はありません。 しかし、音のキャラクターという点において、この2台は全くの別物です。兄弟機というよりは、目指した頂が異なるライバルと言ったほうが正しいかもしれません。
「音の太さ」のTRITON vs. 「音の鋭さ・透明感」のTRINITY
一般的に、TRITONは「太く(Fat)、温かい」、TRINITYは「鋭く(Sharp)、透明感がある(Clear)」と評されます。 TRITONは、ヒップホップやR&B全盛期に開発されたこともあり、中低域の押し出しが強く、ドラムやベースがズ太く鳴るようにチューニングされています。いわゆる「今っぽい」「使いやすい」音です。
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対してTRINITYは、バブル崩壊後の混沌とした90年代後半の空気を反映するかのように、冷徹で、クリスタルガラスのように透き通った高域を持っています。 キラキラとしたベル、どこまでも広がるパッド、鋭利なリード。これらの音色は、TRITONでは出せません。TRITONで同じような音を作ろうとしても、どこか音が丸くなってしまうのです。 この「冷たさ」「人工的な美しさ」こそが、小室サウンドやヴィジュアル系バンドの楽曲で聴ける、あの独特の切なさや高揚感の正体です。
フィルターの違いが生む、唯一無二の「絹のような」質感
音質の違いを生んでいる決定的な要素の一つが、フィルターです。 TRINITYに搭載されているデジタルフィルターは、非常に特殊な特性を持っています。レゾナンスを上げても音が痩せず、自己発振寸前のギリギリのところで、倍音が美しく歪むのです。 このフィルターを通すことで、単純なノコギリ波でさえも、「絹のような(Silky)」と形容される滑らかな質感に変化します。
一方、TRITONのフィルターはより現代的で、良い意味で優等生です。効きが素直で、予測しやすい。 しかし、TRINITYのような「魔法」はかかりません。TRINITYのフィルターを開閉した時の、あの有機的なうねりと倍音の変化。これは、一度味わうと病みつきになります。 特に「Monster Lead」などの歪んだリード音や、「Film Sweep」のようなパッド音におけるフィルターの挙動は、芸術の域に達しています。VST版でも、このフィルターの挙動は驚くほど忠実に再現されています。
現代のジャンル(Y2K、Vaporwave)でこそ輝く理由
では、TRINITYのサウンドは単なる「懐メロ」専用なのでしょうか?答えはNOです。 むしろ、現代の音楽トレンドにおいてこそ、TRINITYのサウンドは必要とされています。
- Y2Kリバイバル: 2000年前後のカルチャーが再評価される今、当時の空気感を纏ったTRINITYのプリセットは、鳴らすだけでその世界観を決定づけます。
- Vaporwave / Synthwave: レトロフューチャーな質感を求めるジャンルにおいて、TRINITYの「少し懐かしい未来感」のある音色は、サンプリングソースとして極上です。
- Lo-Fi Hip Hop: あえてビットレートを落としたり、劣化させたりするLo-Fiにおいても、TRINITYの透き通ったパッドやエレピは、汚し甲斐のある美しい素材となります。
「リアルすぎる最近の音源に疲れた」「もっと個性的で、耳に残るシンセ音が欲しい」。そんな現代のクリエイターにとって、TRINITYは宝の山に見えるはずです。
KORG Collection 6での進化と使い勝手
VST化にあたり、TRINITYは単なる再現に留まらず、現代の制作環境に合わせて大幅なパワーアップを果たしています。実機の不便だった点は解消され、長所はさらに伸ばされています。
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ポリ数制限からの解放!レイヤーし放題の贅沢
実機のTRINITYは、最大同時発音数が32音でした。これは当時としては標準的でしたが、複雑なコンビネーション(音色を重ねるモード)を使うと、すぐに音が途切れてしまうのが悩みでした。 しかし、VST版ではCPUパワーが許す限り、実質無制限に発音できます。 あの重厚なパッド音を、両手で和音を押さえても音が切れない。ドラムとベースとシーケンスを同時に鳴らしても余裕。「昔は音切れを避けるために裏技を使っていたなぁ」という古参ユーザーも、これには感動するはずです。
あのTouchViewがそのままに!直感的なGUIとBrowser機能
TRINITYの代名詞であるタッチパネル液晶のGUIも、高解像度でリメイクされています。 パラメータの配置は実機そのままなので、実機ユーザーはマニュアルなしで操作できるでしょう。 さらに、現代的なサウンドブラウザが追加されています。「Category(ジャンル)」や「Character(音の傾向)」でタグ検索ができ、膨大なプリセットの中から目的の音を一瞬で探し出せます。 「あれ、あのベルの音どこだっけ?」とバンクボタンをポチポチ押す必要はもうありません。お気に入りの音色には「Favorites(星マーク)」をつけることも可能です。
エフェクト地獄も解消?インサートエフェクト8系統の自由度
TRINITYは、インサートエフェクト(IFX)の接続方法が少々複雑でした。「サイズ」という概念があり、強力なエフェクトを使うと他のパートでエフェクトが使えなくなる…というパズル要素があったのです。 VST版では、この制限も撤廃されています。8系統のインサートエフェクトを自由に、フルパワーで使用可能です。 歪み系エフェクトを多段掛けしたリード、深いリバーブをかけたパッド、コンプを強烈にかけたドラム。これらを1つのプラグイン内で完結させることができます。TRINITYのエフェクトは単体でも非常に質が高い(特に空間系とモジュレーション系)ので、これだけでも音作りの幅が大きく広がります。
実践!TRINITY VSTを使ったサウンドメイキングレシピ
ここでは、TRINITY VSTを使って、現代のトラックに使える具体的な音作りのレシピをいくつか紹介します。「プリセットを選ぶだけ」も楽しいですが、少し手を加えるだけで、誰とも被らないオリジナルのサウンドが生まれます。
レシピ1:Vaporwave風「終わらない夏」パッド
Vaporwave特有の、ノスタルジックで不安定なパッド音を作ります。
- **Program「A06: Film Sweep」**を選択します。
- エフェクトセクションを開き、Master FXの「Ensemble」を「Chorus」に変更し、Depthを深めに設定します。
- LFOの設定で、ピッチに対してごくわずかに揺らぎを与えます(Speedを遅く、Intensityを極小に)。
- これで、VHSテープが伸びたような、美しくも不安定なパッドの完成です。ローパスフィルター(LPF)を少し閉じて、高域を削るとより雰囲気が出ます。
レシピ2:Y2Kテクノ風「高速アルペジオ」
2000年代初頭のテクノやトランスで聴かれた、冷たくて速いアルペジオです。
- **Program「B01: Monster Lead」**を選択します。これは非常に有名な歪んだリード音です。
- このままだと主張が激しすぎるので、アンプエンベロープ(Amp EG)のSustainを下げ、Decayを短くして、プラック(撥弦楽器)のような減衰音にします。
- アルペジエーター(ARP)をONにし、Gate(音の長さ)を短めに設定します。
- IFX(インサートエフェクト)に「Stereo Delay」を挿入し、BPM同期で付点8分のディレイをかけます。
- これで、サイバーパンクな世界観にぴったりの、疾走感あるアルペジオサウンドになります。
導入前にチェック!実機ユーザーも納得の再現度
最後に、導入を検討している方、特に実機の記憶がある方に向けて、気になる細かいポイントをチェックしておきましょう。
「Comb」モードの再現性は?実機との比較
TRINITYユーザーならマニアックな「Combination」モードの再現度が気になるでしょう。 コンビネーションモードでは、最大8つのプログラムを重ねたり、鍵盤の範囲で音色を分けたり(スプリット)できます。 VST版でもこの構造は完全に維持されており、実機で作ったCombiデータをSysEx(システムエクスクルーシブ)経由で読み込むことすら可能です(※一部制限あり)。 実機で作り込んだ、自分だけの最強のレイヤーサウンド。それがそのままDAW上で再現された瞬間、あなたはきっと「おかえり」と呟いてしまうでしょう。
CPU負荷は重い?快適に動かすためのスペック
Access音源の複雑な演算や、DACのモデリングを行っているため、KORG Collectionの中では比較的CPU負荷は高めです。 M1やWAVESTATIONのように「何十個も立ち上げても軽々」というわけにはいきません。特に、複雑なエフェクト処理を行っているプリセットや、物理モデル(Solo-Tri)を使用しているパッチでは、それなりのパワーを食います。 しかし、最近のPC(Apple Silicon Macや、Core i7以降のWindows機)であれば、実用上問題になることは少ないでしょう。もし重いと感じた場合は、DAWのフリーズ機能を活用するか、必要なパートだけオーディオ化する運用がおすすめです。
KORG Collection 6へのアップグレードをおすすめする人
まだKORG Collection 4や5を使っている人は、今すぐ6へアップグレードすべきです。 TRINITYが含まれているのは「6」からです。TRINITY単体で購入することも可能ですが、Collection全体をアップグレードしたほうが、コスパは圧倒的に良いです。 TRINITYだけでなく、SGX-2(最高級ピアノ音源)などもセットになっており、あなたの音源ライブラリを一気にプロフェッショナルなレベルへと引き上げてくれます。
よくある質問(FAQ)
導入にあたって、よくある疑問をまとめました。
- Q: KORG TRITON VSTを持っていますが、TRINITYを買う必要はありますか?
- A: 強くおすすめします。 記事中でも触れましたが、TRITONとTRINITYは音の傾向が全く異なります。特に、冷たく透明感のあるパッドや、鋭利なリードサウンドに関しては、TRINITYにしか出せない味があります。両方持つことで、90年代〜00年代のKORGサウンドの歴史を完璧に網羅できます。
- Q: 実機で作った音色データは読み込めますか?
- A: はい、可能です。 実機のシステムエクスクルーシブ(SysEx)データのインポートに対応しています。フロッピーディスクに眠っているあなたの「青春の音」を、現代の環境で蘇らせることができます。
- Q: プリセットの数はどれくらいですか?
- A: 膨大です。 本体内蔵のプリセットに加え、すべての拡張音源ボードの音色が含まれているため、数千種類に及びます。すべてを聴くだけでも数日はかかるでしょう。しかし、ブラウザ機能が優秀なので、迷子になることはありません。
まとめ:90年代の「未来」は、今も色褪せない
30年前、TRINITYが描いていた「未来の音」。それは、2020年代の今聴いても、決して古臭くありません。 むしろ、便利になりすぎて均質化してしまった現代のサウンドの中で、TRINITYの持つ「野心」や「熱量」のようなものは、より一層の輝きを放っています。
あの頃、高嶺の花で買えなかった憧れのシンセ。それが今、あなたの手の中にあります。 TRINITY VSTを立ち上げ、プリセットA01を選び、鍵盤を押してみてください。 そこには、色褪せない「銀色の巨艦」が紡ぎ出す、無限の宇宙が広がっています。さあ、あの頃の未来へ、もう一度旅立ちましょう。
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