ロックやメタルの歴史を語る上で、決して欠かすことのできないアンプブランド、それがMesa/Boogie(メサブギー) です。地を這うような重低音を響かせる「Rectifier(レクチファイアー)」や、シルキーで伸びやかなリードトーンが魅力の「Markシリーズ」。これらのアンプが放つ唯一無二のサウンドは、メタリカ、ドリーム・シアター、カルロス・サンタナといった数多くの伝説的なギタリストたちによって愛されてきました。
しかし、本物のMesaアンプを所有し、その真価を発揮させるのは至難の業です。巨大な筐体、細かなメンテナンス、そして何より住宅事情では許されない爆音。こうしたハードルを越え、自宅や宅録環境で理想の「メサ・サウンド」を手に入れるための鍵が、高品質なアンプシミュレーター(プラグイン) です。
かつては「デジタルは偽物の音」と言われた時代もありましたが、現在はNeural DSPやIK Multimedia、Brainworxといったメーカーの技術革新により、実機と見紛うほどのクオリティが実現されています。
この記事では、メサブギーのサウンドを完璧に再現したいギタリストのために、現時点で最高峰とされるアンプシミュレーターを厳選してご紹介します。
目次
なぜMesa Boogieなのか?ギタリストを虜にする重厚なサウンドの秘密
ギターアンプの世界には、マーシャル、フェンダー、VOXといった数々の定番ブランドが存在します。その中でMesa Boogieが特別な地位を築いている理由は、その「圧倒的な多様性と、極限の歪み」 にあります。
メサブギーの歴史は、1960年代後半、ランドール・スミスがフェンダー・プリンストン・アンプを改造し、驚異的なゲインとサステインを持たせたことから始まりました。これを試奏したカルロス・サンタナが「Shit, man. That little thing really boogies !」と叫んだことがブランド名の由来になったというエピソードは、あまりにも有名です。
唯一無二の存在感:MarkシリーズとRectifierの決定的な違い
メサブギーのトーンを語る上で、まず理解しておかなければならないのが、2つの大きな柱である「Markシリーズ」 と「Rectifierシリーズ」 の違いです。プラグインを選ぶ際も、自分がどちらのサウンドを求めているかを明確にすることが、理想の音への近道となります。
Markシリーズ(リードの王者): Markシリーズ(Mark I〜Mark V, JP-2C等)は、タイトで中域に芯がある、洗練されたサウンドが特徴です。特にMark IIC+ は「伝説のアンプ」として知られ、メタリカのジョン・ペトルーシなどが愛用したことで、ハイゲイン・リードの完成形と称されます。ピッキングのニュアンスに敏感で、速弾きやテクニカルなプレイでも一音一音が潰れず、シルクのような滑らかさを持ち合わせています。
Rectifierシリーズ(重低音の覇者): 90年代、ニューメタルや現代のハードロック・シーンを席巻したのがRectifierシリーズです。地を這うような深い低周波数域と、壁のように迫り来る分厚い歪み。この「レクチ(Recti)」サウンドは、まさに破壊力そのものです。ドロップチューニングを多用するモダン・メタルにおいても、その低域のパワーは他の追随を許しません。
プラグインの世界でも、この2つのキャラクターは明確に作り分けられています。クリーンからソロまでをこなす万能性を求めるならMark系、リフの破壊力と迫力を求めるならRectifier系、という選び方が基本となります。
【Markシリーズ編】至高のリードトーンを再現するおすすめシミュレーター
MarkシリーズのサウンドをPCで再現するのは、非常に高度な技術を要します。なぜなら、その回路は極めて複雑で、EQの設定がゲインの質感に大きく影響するからです。ここでは、その複雑なニュアンスを見事に捉えたトップクラスのプラグインを紹介します。
Neural DSP Mesa Boogie Mark IIC+ Suite:現時点で最高峰の再現度
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もしあなたが「最も本物のMark IIC+に近い音」を探しているなら、結論はNeural DSP Mesa Boogie Mark IIC+ Suite 一択かもしれません。
Neural DSPは、現代のアンプシミュレーター業界で最も勢いのあるメーカーですが、このプラグインはメサブギー本社との密接な協力のもと開発されました。実機の回路図を完全にデジタル化するだけでなく、その「操作感」までもが完璧に再現されています。
NeuralDSP Mesa Boogie Mark IIC+
サウンドの核 : 伝説のMark IIC+(およびその回路をさらに拡張したIIC++)をモデルにしています。
5-band Graphic EQ : メサブギーの象徴であるグライコが見事に機能します。これを特定の「V字」に設定した瞬間に、あのアルバムで聞いたサウンドが飛び出してきます。
柔軟性 : クリーン・チャンネルの鈴鳴りのような美しさと、リード・チャンネルの濃密な歪みの対比が素晴らしい。
Neural DSP製品に共通する、直感的で美しいUIも健在です。まるで高級なラック機材を操作しているような感覚で、ストレスなく音作りが楽しめます。
Neural DSP Archetype: Petrucci:Petrucciファン必携のMesa系トーン
もう一つ、Mark系サウンドを語る上で無視できないのがArchetype: Petrucci です。これはジョン・ペトルーシのシグネチャー・プラグインですが、彼がMesa Boogieの熱狂的な愛用者(現在は自身のJP-2Cモデルを使用)であるため、このプラグインのハイゲイン・チャンネルは実質的に「最高にチューンアップされたメサ・サウンド」そのものです。
Mark IIC+ Suiteがヴィンテージな名機の再現に重きを置いているのに対し、Petrucciモデルは、現代のプロがレコーディングやライブでそのまま使える「完成されたモダン・トーン」を提供しています。特に、内蔵されているピッチシフターや豪華な空間系エフェクトとの相性は抜群で、これひとつでドリーム・シアターのような要塞のごときサウンドを構築できます。
Neural DSP – Algorithmically Perfect – Neural DSP
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Brainworx bx_megadual:精密な回路モデリングが放つDual Rectifierの神髄
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オーディオ業界の老舗、Plugin Alliance傘下のBrainworx が手掛けるbx_megadual は、Dual Rectifierの初期モデルを精密にエミュレートした力作です。
Brainworxの技術(TMT: Tolerance Modeling Technology)は、アナログ機材のパーツ一つひとつの個体差まで計算に入れ、デジタルの冷たさを徹底的に排除します。bx_megadualで鳴らす低音は、スピーカーが激しく震えているかのような「箱鳴り」の圧を感じさせてくれます。
Raw/Vintage/Modernモード : 実機のチャンネルに搭載されているモード切り替えを忠実に再現。特にModernモードの、真空管整流ではなくシリコンダイオード整流を選んだ時のタイトな歪みは圧巻です。
キャビネットIR : 完璧にマイク録音された膨大な数のキャビIRが内蔵されており、初心者でも名エンジニアが鳴らしたような音をすぐに出せます。
単なるシミュレーターを超え、レコーディング・ツールとしての完成度が極めて高いのが特徴です。
Bogren Digital AmpKnob RevC:即戦力のレクチサウンドを1ノブで
Bogren Digital AmpKnob RevC
「難しい設定はしたくない、とにかく最高にかっこいいレクチの音で録音したい」という方には、Bogren Digital AmpKnob – RevC が最適解です。
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伝説的なメタルプロデューサー、イェンス・ボグレン(アーチ・エネミー、アモンス・アマース等)が監修したこのプラグインは、驚くことにメインのノブが1つしかありません。 しかし、その1ノブを回すだけで、世界最高峰のメタル・プロダクションで聴ける「あのレクチの音」が手に入ります。
RevCのこだわり : Dual Rectifierの中でも、特に音が良いとされる初期バージョンの「Rev.C」をベースにしています。
アルバム・レディ : 起動した瞬間に、イェンス・ボグレンが完璧にEQ、コンプ、キャビネット設定を施した音が鳴ります。ギタリストは音作りに迷う必要がなく、ただ演奏に集中するだけで良いのです。
この「潔さ」こそ、忙しい現代のコンポーザーや宅録ギタリストにとって最大の武器になります。
Amplifikation ARKHIVE
Amplifikation ARKHIVE
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Kuassa Amplifikationシリーズで使えるギターアンプシュミレーター。
Amplifikation ARKHIVEはメサブギーのアンプをシュミレーションしています。
3チャンネル、5種類のキャビネットタイプを切り替えられます。
公式ライセンス vs 新進気鋭メーカー:失敗しない選び方のポイント
メサブギーのプラグインを選ぶ際、「公式ライセンス(Mesa/Boogie社が公認・監修したもの)」か、そうでないかという点が気になるかもしれません。
IK Multimedia のAmpliTube MESA/Boogie は、世界初の「メサブギー公認プラグイン」として有名です。これの最大の強みは、実機のオーナーズマニュアル通りの操作ができ、ブランドの承認を得ているという安心感です。
Mark IVやTriple Rectifier、さらにはTransAtlanticといった珍しいモデルまで網羅されており、「Mesa Boogieというブランドの全体像を知りたい」という人にはこれ以上のパッケージはありません。AmpliTube 5の高度なVIR(体積インパルス・レスポンス)技術により、キャビネットの鳴りの良さも格段に向上しています。
一方で、Neural DSPやBrainworx、Bogren Digitalといったメーカーは、必ずしもすべてが「公式」ではありませんが、それぞれが独自の最新技術(ニューラル・ネットワークやパーツ単位の精密モデリング)を駆使し、公式品とはまた違った「生々しいリアリティ」を追求しています。
選び方のヒント:
網羅性とコレクション性 を重視する、あるいは公式の承認を信頼するならIK Multimedia 。
特定の1台の圧倒的なリアリティ と、最新の弾き心地を求めるならNeural DSP やBrainworx 。
ミックス作業の効率と即戦力 を求めるならBogren Digital 。
【実践】Mesa Boogieプラグインで「あの音」を作るための設定のコツ
メサブギーのシミュレーターを手に入れても、設定次第では本来の魅力を引き出せないことがあります。ここでは、実機でもプラグインでも共通して使える「メサ流・音作りの秘訣」をご紹介します。
キャビネットIRの重要性:Mesa純正キャビが音の8割を決める
アンプヘッドのモデルと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのがキャビネットSIM(IR) です。Mesa Boogieのサウンドは、あの伝統的なV30(Celestion Vintage 30)を搭載した「Over-sized 4×12」キャビネットと切り離すことはできません。
もしプラグインで納得のいく音が出ない場合は、アンプ側を弄る前に、キャビネットの設定をチェックしてください。Mesa純正のタイトで重厚なIRを使用するだけで、音が魔法のように「本物」に近づくはずです。Neural DSPやBrainworxの製品は、あらかじめ最高の設定がなされていますが、外部のIR(OwnHammerやYork Audio等)を試してみるのも面白いでしょう。
EQ設定の魔法:V型カーブだけじゃないMesaの奥深さ
Markシリーズの代名詞とも言えるのが5-band Graphic EQ です。一般的には、中域をガッツリ削った「V字型」がメタル定番と言われますが、実はその削り具合で音の性格が激変します。
80Hz : ギターのボディ鳴りをコントロールします。上げすぎるとミックスが濁るので、適度なブーストに留めます。
750Hz : メサ・グライコの核心です。ここを大きく下げる(スクープする)とモダン・ハイゲインに、少し残すとオールドスクールなロックな質感になります。
6600Hz : ギターの「エッジ」を決めます。ここを上げると攻撃性が増しますが、耳に痛い成分も含まれるため、繊細な調整が必要です。
また、メサブギーのアンプ(特にMarkシリーズ)は、フロントパネルのEQ(Bass, Mid, Treble) が、歪みの前の段階にあることが多いです。そのため、Bassを上げすぎると音がブーミーになり、歪みが濁ってしまいます。これを適度に絞り、足りない低域は後段のグライコで補う、というのがMesaマスターの定石です。
【まとめ】あなたの理想のMesa Boogieプラグインは見つかりましたか?
Mesa Boogieのサウンドは、一朝一夕には語り尽くせないほど奥深いものです。しかし、今回ご紹介したプラグインたちを使えば、かつてプロだけが独占していたあの素晴らしいトーンを、あなたの指先から生み出すことができます。
Neural DSP Mark IIC+ Suite で、伝説のリードトーンに酔いしれる。
Brainworx bx_megadual で、本物の真空管の圧を体感する。
Bogren Digital AmpKnob RevC で、一瞬にして完璧なメタル・サウンドを手に入れる。
どの道を選んでも、そこにはギターを弾く喜びと、新しいインスピレーションが待っているはずです。
もし迷っているなら、多くのメーカーが提供している無料体験版(Free Trial) を活用してみてください。自分のギター、自分のインターフェースで鳴らした時に、あなたの心に最も響くプラグインが、あなたにとっての正解です。
さあ、今日からあなたのDAWをMesa Boogieの壁で満たし、最高のギター・ライフをスタートさせましょう!
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