優雅なオーケストラや美しい旋律だけでは、もはや視聴者を満足させることはできません。求められているのは、血の匂いがするような「荒々しさ」、魂を揺さぶる「儀式的なリズム」、そして太古の記憶を呼び覚ます「未知の響き」です。 そんな時代の要請に応えるかのように、稀代のサウンドデザイナーEduardo Tarilonteが放つ最新作、「Best Service Dark ERA 2」がついに登場しました。
Best Serviceの「ERA」シリーズといえば、中世・ルネサンス期の音楽を再現する音源として、世界中のコンポーザーから絶大な信頼を得ています。その中でも異色の存在感を放っていたのが「Dark ERA」でした。 きらびやかな宮廷音楽ではなく、バイキングの侵略や異教徒の儀式、古代の戦いに焦点を当てたこのシリーズが、ついに「2」へと進化を遂げました。
開発者のEduardo Tarilonte(エドゥアルド・タリロンテ)氏は、単に古い楽器をサンプリングするだけではありません。彼は「その時代に生きた人々の感情」までも音に封じ込めようとします。 Dark ERA 2で表現されているのは、文明が発達する前の、自然への畏怖や暴力的な衝動が支配していた時代の空気感です。収録された楽器の音色は、時に耳を劈くほど鋭く、時に大地を震わせるほど重く響きます。これらは、現代の洗練された楽器では絶対に出せない音です。
Engine Playerが可能にする、複雑なアーティキュレーションの直感操作
Dark ERA 2は、Best Service独自のサンプルプレイヤー「Engine 2」上で動作します。「Kontaktじゃないの?」と敬遠する方もいるかもしれませんが、Edu氏のライブラリに関しては、Engine Playerこそが最適解です。 なぜなら、彼の音源特有の複雑なレイヤー構造や、キースイッチによる奏法切り替え、そして美しいグラフィックインターフェース(GUI)が、Engine Playerに合わせて専用設計されているからです。画面を見るだけで、どの鍵盤を押せばどんな音が鳴るかが一目瞭然で、マニュアルを熟読しなくても直感的に演奏に入り込めます。
Dark ERA 2の最大の強化ポイントは、間違いなくリズムセクションです。 前作でも評価の高かった「Shamanic Drum(シャーマンドラム)」がさらにバリエーション豊かになり、大小様々なフレームドラム、骨を打ち付ける音、金属的な打撃音など、膨大な数のパーカッションが追加されました。 これらは単発のワンショットだけでなく、BPMに同期するループ素材としても大量に収録されています。鍵盤を一つ押すだけで、映画「マッドマックス」や「ウィッチャー」のような、腹に響くトライバルなビートが鳴り響きます。
魂を揺さぶる「声」の拡張:喉歌(Throat Singing)とチャント
もう一つの目玉が「声」です。Dark ERA 2では、モンゴルのホーミーやイヌイットの伝統歌唱にインスパイアされた、特殊な発声法によるボーカルパッチが大幅に増えました。 低音で唸るような「Kargyraa(カルグラ)」、倍音を響かせる「Sygyt(スグット)」、そして戦士たちの雄叫びのようなチャント。これらは、シンセサイザーのクワイア音源では絶対に再現できない、強烈な人間臭さと宗教的な響きを持っています。メロディを奏でるだけでなく、リズム楽器の一部として声を使うようなアプローチも可能です。
既存ユーザーも納得。表現力の幅を広げる新レイヤー構造
Engine Playerの機能を活かした「サウンドスケープ」も進化しています。 Dark ERA 2では、複数の楽器や環境音(風の音、焚き火の音、金属の軋みなど)をレイヤーし、モジュレーションホイールでそのバランスをリアルタイムに変化させることができます。 例えば、最初は静かな風の音だけだったのが、ホイールを上げると徐々にドラムが入り、最後には不穏なドローンと叫び声が重なってクライマックスを迎える…といった展開を、たった1トラックで表現できるのです。これは劇伴制作において、時短とクオリティ向上を同時に叶える強力な武器になります。
ERA IIは、中世ヨーロッパの「王宮」「教会」「騎士道」といった世界観を得意とします。リュートやリコーダー、ヴィオラ・ダ・ガンバなど、比較的洗練された楽器が多く、メロディックで綺麗なファンタジー音楽を作るのに向いています。 対してDark ERA(および2)は、もっと古い時代、あるいは文明の外側に焦点を当てています。「バイキング」「シャーマン」「未開の地」といったキーワードに惹かれるなら、迷わずDark ERAを選ぶべきです。音が「汚い(褒め言葉)」のです。
もちろん、これらは排他的な関係ではありません。むしろ、組み合わせることで最強のシナジーを生みます。 Dark ERAの重厚なパーカッションとドローンで土台を作り、その上でERA IIのフルートやハープで美しい旋律を奏でる。こうすることで、「美しさ」と「恐ろしさ」が同居する、深みのあるファンタジー世界を構築できます。予算が許すなら、両方揃えるのが正解です。
Dark ERA 2 公式サウンド
Dark ERA 2 / 01 Thunder of Shields by Eduardo TarilonteDark ERA 2 / 02 Drumspell by Eduardo TarilonteDark ERA 2 / 03 Nyckelharpa by Firelight by Eduardo TarilonteDark ERA 2 / 04 Led by the Old Gods by Eduardo TarilonteDark ERA 2 / 05 Lament for Grundara by Eduardo Tarilonte
実際の制作でどう使う? 劇伴・ゲーム音楽におけるDark ERA 2活用術
1鍵盤で世界観を作る「サウンドスケープ」の魔法
時間がない時や、インスピレーションが湧かない時、Dark ERA 2の「Soundscapes」カテゴリーのパッチを読み込んでみてください。 鍵盤を一つ、長く押し続けるだけです。それだけで、風の音、鳥の声、遠くの太鼓、不気味なドローンが重なり合い、映画のオープニングシーンのような音が流れ出します。これをDAWに貼り付けて、少しオートメーションを書くだけで、立派なイントロダクションが完成します。
Dark ERA 2の楽器は、単体で使うだけでなく、シンセサイザーやモダンなオーケストラと混ぜても面白い効果が得られます。 例えば、エピックなドラムアンサンブルの中にシャーマニックドラムを混ぜて「土着的」なニュアンスを足したり、シンセリードの代わりにタゲルハルパを歪ませて使ったり。 ハンス・ジマーなどのハリウッド映画音楽でも、こうした古楽器を加工して使う手法は頻繁に使われています。Dark ERA 2は、そんな「最先端のサウンドデザイン」のための素材集としても極めて優秀です。
Best Service Dark ERA 2は、単なる「古い楽器の詰め合わせ」ではありません。それは、我々のDNAに刻まれた「太古の記憶」を呼び覚ますための装置です。 もしあなたが、ありきたりなファンタジー音楽に飽き足らず、聴く人の魂を直接鷲掴みにするようなサウンドを求めているなら、この扉を開いてみてください。そこには、現代社会が忘れてしまった、圧倒的な「闇」と「力」が広がっています。
この記事について質問がありますか?コメントはお気軽にご記入ください