1978年の伝説的リズムマシン、Roland CR-78の魅力を徹底解説。Cherry AudioやRoland Cloudなど主要VSTプラグインの比較から、In the Air Tonight風の音作り、現代的な活用法まで、DTMユーザー必見の情報を網羅しました。1万文字超の特大ボリュームでお届けします。
目次
Roland CR-78 VST徹底解説:伝説のリズムマシンを現代のDAWで完全再現する究極ガイド
音楽制作の歴史において、特定の機材が単なる「道具」を超えて、一つの時代やジャンルそのものを象徴するアイコンとなることがあります。
ローランドが1978年に世に送り出したCompuRhythm CR-78 は、まさにそのような伝説的な名機の一つです。そのポコポコとした温かいアナログサウンド、独特のグルーヴ、そしてプログラム可能なリズムパターンは、フィル・コリンズの「In the Air Tonight」やブロンディの「Heart of Glass」といった歴史的名曲の屋台骨を支え、80年代のポップス、テクノポップ、そして現代のインディーポップやLo-Fi Hip Hopに至るまで、数え切れないほどの楽曲にそのDNAを刻み込んできました。
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フィル・コリンズの「In the Air Tonight」
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ブロンディの「Heart of Glass」
そして今、2025年。DTM環境の進化と共に、この伝説のリズムマシンはVSTプラグイン として、驚くべきクオリティで現代のDAW環境に蘇っています。単なるサンプリング音源の枠を超え、実機の回路挙動そのものをモデリングしたソフトウェアや、現代的なシーケンサー機能を融合させたハイブリッドなインストゥルメントが登場し、私たちはかつてないほど手軽に、そして深く、あの「CR-78サウンド」を操ることができるようになりました。
この記事では、Roland CR-78という機材が持つ歴史的な意義と魅力から始まり、現在入手可能な主要なCR-78 VSTプラグイン (Cherry Audio、Roland Cloud、無料プラグインなど)の徹底比較、さらには実機では不可能だった「VSTならでは」の音作りテクニックまで、徹底的に解説します。
「あの曲のあの音が欲しい」というDTM初心者から、「本物のアナロググルーヴを追求したい」というプロフェッショナルまで、全てのクリエイターに捧ぐ、CR-78 VSTの決定版ガイドです。
Roland CR-78とは?伝説のリズムマシンの全貌
1978年の革命:世界初のプログラマブル・ドラムマシン
時計の針を1978年に戻しましょう。当時はまだ「ドラムマシン」という言葉さえ一般的ではなく、「リズムボックス」と呼ばれる、オルガンの伴奏用機材が主流でした。プリセットされたサンバやボサノバのリズムを流すだけの単調な箱。そんな時代に登場したRoland CR-78は、まさに革命 でした。
CR-78の最大の特徴、それは「プログラマブル」 であること。つまり、ユーザーが自分でリズムパターンを打ち込み、保存できる機能を備えた、世界初のマイクロプロセッサ搭載リズムマシンだったのです。
これは現代の私たちにとっては当たり前の機能ですが、当時は衝撃的なスペックでした。木目調のキャビネットに収められた色とりどりのボタン、そしてアナログ回路によって生成される独特の電子ドラム音。それは単なる伴奏機ではなく、アーティストが自身の創造性を表現するための「楽器」へと進化した瞬間でした。
多くの名曲を生んだ「あの音」の秘密と歴史的背景
CR-78のサウンドを一言で表すなら、「温かみのあるチープさ」 と「有機的なグルーヴ」 でしょう。TR-808の重低音キックや、TR-909の攻撃的なスネアとは異なり、CR-78の音色はどこか牧歌的で、哀愁を帯びています。
「プッ」という短いディケイのキック、「チッ」という繊細なハイハット、そして「ポコポコ」と鳴るタムやボンゴ。そして忘れてはならないのが、CR-78の代名詞とも言える「メタリック・ビート(Metallic Beat)」 です。シンバルの金属的な響きを独特のフィルタリングで加工したこのサウンドは、他のどのリズムマシンにも真似できない、CR-78だけのシグネチャーサウンドです。
この独特のサウンドキャラクターは、当時のニューウェーブやシンスポップのアーティストたちを即座に虜にしました。
Phil Collins – “In the Air Tonight” : この曲の冒頭から流れる、冷ややかで緊張感のあるビート。これこそがCR-78のサウンドそのものです。プリセットの「Disco-2」をベースにしたと言われるこのパターンは、CR-78の歴史的評価を決定づけました。
Blondie – “Heart of Glass” : ディスコビートとCR-78の「Mambo」や「Beguine」のリズムを組み合わせることで生まれた、独特の浮遊感。アナログテープの揺らぎと相まって、夢見心地なグルーヴを生み出しています。
Daryl Hall & John Oates – “I Can’t Go for That (No Can Do)” : シンプルな「Rock-1」のプリセットを使用しながらも、その枯れた味わい深いサウンドが、ソウルフルなボーカルと完璧にマッチしています。
Radiohead – “Idioteque” (Live) : 現代においても、トム・ヨークがライブパフォーマンスでCR-78を使用するなど、その愛好者は後を絶ちません。
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Daryl Hall & John Oates – “I Can’t Go for That (No Can Do)”
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なぜ、半世紀近く前の機材の音が、今なおこれほどまでに愛されるのでしょうか?それは、CR-78の音が「隙間」 を持っているからだと筆者は考えます。現代の超高解像度なドラム音源は、帯域を埋め尽くすような迫力がありますが、時にトラックの中で居場所を見つけるのが難しいことがあります。対してCR-78のサウンドは、周波数帯域が絶妙に整理されており、歌やシンセサイザーといった他の楽器と混ざった時に、驚くほど自然に馴染むのです。「主張しすぎないのに、確かな存在感がある」 。これこそが、CR-78がタイムレスな名機であり続ける理由なのです。
現代に蘇るCR-78:主要VSTプラグイン徹底比較
伝説の名機CR-78ですが、実機は現在中古市場で非常に高騰しており、メンテナンスも難しいため、手軽に入手できるものではありません。しかし、幸運なことに、私たちはVSTプラグイン という形で、この伝説のサウンドをDAW上で鳴らすことができます。
現在、CR-78をエミュレートしたプラグインはいくつか存在しますが、その中でも特にクオリティが高く、ユーザーからの評価も高い主要な製品をピックアップし、その特徴やサウンド、使い勝手を徹底比較していきます。「どれを選べばいいの?」と迷っている方は、ぜひこのセクションを参考にしてください。
1. Cherry Audio CR-78: 現代的機能と操作性の融合
Cherry audio CR-78 Drum Machine
「もはや実機を超えた」 との呼び声も高い、現在の決定版とも言えるプラグインが、Cherry Audio のCR-78 です。
サウンドクオリティ : サンプリングではなく、独自のモデリング技術によって回路レベルで音を再現しています。そのため、ピッチを変えたりディケイを伸ばしたりしても、サンプルのような不自然な劣化が一切ありません。実機の持つ「揺らぎ」や「ノイズ感」までも見事に再現されています。
操作性(UI) : オリジナルの複雑なプログラミング方式を一新し、現代的なX0Xスタイル(TR-808のような16ステップシーケンサー) を採用しています。これにより、視覚的にリズムを打ち込むことができ、現代のDAWユーザーにとっても非常に扱いやすい設計になっています。
独自の拡張機能 :
Voice Editパネル : これが最強の機能です。実機では不可能だった「全てのインストゥルメントのチューニング、パン、ディケイ、アタック、フィルター」を個別に調整できます。例えば、キックを重低音に加工したり、スネアをノイジーにしたりと、CR-78の音色をベースにしながら、全く新しいサウンドを作り出すことが可能です。
エフェクト搭載 : オーバードライブ、フランジャー、ディレイ、リバーブ(プレート/スプリング)、そしてマスターコンプレッサーとEQまで内蔵しています。これ一本で、最終的なドラムトラックの音作りまで完結できてしまうほど強力です。
総評 : 「オリジナルの音は欲しいけど、現代的な曲作りにも対応させたい」という方に最もおすすめのプラグインです。価格も手頃で、コストパフォーマンスは最強クラスと言えるでしょう。
CR-78 Drum Machine はこちら >>
2. Roland Cloud CR-78: 本家本元のACBテクノロジー
ローランド自身がリリースしている、いわば「公式」 のエミュレーションです。Roland Cloudのサブスクリプション、またはLifetime Key(買い切り)で使用可能です。
サウンドクオリティ : ローランド独自のACB (Analog Circuit Behavior) テクノロジーを使用しており、サウンドの再現度は「本物」そのものです。開発当時の設計図やエンジニアのノウハウが投入されており、実機の個体差までもシミュレートするような、極めて精密な音がします。
操作性 : UIは実機を忠実に再現しているため、オリジナルのファンにはたまらないデザインです。一方で、ステップシーケンサー画面も用意されており、現代的な打ち込みにも対応しています。
特徴 : 「公式である」 という安心感は絶大です。また、他のRoland Cloud製品(TR-808, TR-909, JUNO-106など)との連携もスムーズで、ローランド製品でスタジオを統一したいユーザーには最適です。
総評 : 「とにかく本物の音にこだわりたい」「ローランドのサウンドエコシステムを活用したい」という生粋のローランドファンにおすすめです。
3. Crow Hill Company: 無料で始めるヴィンテージ体験
「まずは無料で試してみたい」という方に朗報です。Crow Hill Company が提供する無料プラグインシリーズ「Vaults」の中に、CR-78をサンプリングした音源が含まれていることがあります(※期間限定で入れ替わることがあるため要確認)。
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サウンド : モデリングではなくサンプリングベースですが、非常に高品位な録音が行われており、CR-78特有のザラつきや空気感がしっかりと捉えられています。
機能 : 機能はシンプルですが、必要十分なパラメータ(パン、ボリューム、シンプルなエフェクト)が備わっています。「とりあえずあの音が欲しい」という場合には、これでも十分に即戦力となります。
総評 : 学生や、予算を抑えたいクリエイター、まずはCR-78の音色が自分の曲に合うか試してみたいというエントリーユーザーに最適です。
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ここまでは、CR-78の歴史と主要なプラグインについて解説してきました。しかし、道具は「持っているだけ」では意味がありません。次章からは、これらのVSTプラグインを使って、実際にどのようにして「使える音」 を作っていくのか、具体的なテクニックとメソッドに深く切り込んでいきます。単にプリセットを鳴らすだけではない、プロクオリティの音作りの秘密を公開します。
実践!CR-78 VSTを使った音作りとテクニック
VSTプラグインの最大の利点は、実機の制約を超えた自由な音作りができることです。特にCherry Audio版のような高機能なプラグインを使えば、CR-78のサウンドキャラクターを保ちつつ、現代のトラックにマッチするパワフルなドラムサウンドを作り上げることができます。ここでは、具体的な音作りのレシピをいくつか紹介しましょう。
1. プリセットの限界を超える:Voice Edit機能の活用
実機のCR-78では、音色の調整は「分解して内部の半固定抵抗を回す」しか方法がありませんでした。しかし、VSTではノブ一つで無限のバリエーションを作れます。
「鳴らない」キックを「鳴る」キックへ : CR-78のキックは非常に短く、「ポッ」という軽い音です。これが味なのですが、現代のダンスミュージックでは低域が不足しがちです。
Voice Edit画面を開き、Kickドラムを選択します。
Decay(ディケイ) を長く設定し、余韻を伸ばします。
Tune(チューン) を少し下げ、より低い周波数帯域をカバーさせます。
さらに、内蔵のエフェクトでOverdrive(オーバードライブ) を薄く(Drive 10-20%程度)かけます。 これだけで、Lo-Fi Hip HopやSynthwaveのボトムを支えるのに十分な、太くて温かい「使える」キックに変身します。
スネアに現代的なスナップ感を加える : CR-78のスネアもまた、独特の軽い音が特徴です。
Snareドラムを選択し、Snappy(スナッピー) のパラメータがあれば上げます(Cherry Audio版など)。
EQで4kHz付近を少しブーストし、アタック感を強調します。
隠し味として、Bit Crusher(ビットクラッシャー) を極薄くかけると、サンプラーを通したような荒々しい質感が加わり、モダンなトラックの中で埋もれない存在感が出ます。
ハイハットのグルーヴをコントロールする : ハイハットの刻みは楽曲のノリを決定づけます。
Velocity(ベロシティ) の設定を活用し、強拍と弱拍で音量だけでなく、微妙に音色(フィルターの開き具合など)が変わるように設定すると、人間味のあるグルーヴが生まれます。
Swing(スウィング) 値を55%〜60%程度に設定してみてください。CR-78の機械的なビートに、絶妙な「跳ね」が加わり、一気にファンキーになります。
2. 「In the Air Tonight」風のゲートリバーブ・サウンドを作る
フィル・コリンズのあの象徴的なドラムサウンドは、実はCR-78単体の音ではなく、生ドラムとゲートリバーブの組み合わせによるものですが、VST単体でもあの雰囲気を再現することは可能です。
Gated Reverb(ゲートリバーブ) を用意します。Cherry Audio版なら内蔵エフェクトにありますし、なければDAW付属のリバーブでもOKです。
リバーブタイプを「Plate」または「Non-Linear」に設定し、Decayを短め(0.5秒〜0.8秒)にします。
CR-78の各パーツ(特にスネアとタム)に深めにリバーブを送ります。
リバーブの後段にCompressor(コンプレッサー) を挿し、レシオを高め(4:1以上)、アタックを遅く、リリースを早く設定して、リバーブの余韻を「パツン」と切るように強調します。
最後に、全体のミックスバランスでドライ音(原音)よりもウェット音(エフェクト音)を大きめにブレンドすると、あの80年代特有の、空間を切り裂くようなドラムサウンドが完成します。
3. 現代のジャンル(Lo-Fi, Synthwave)への応用メソッド
CR-78のサウンドは、現代の特定のジャンルにとって「魔法の調味料」となります。
Lo-Fi Hip Hopの場合 :
あえてSample Rate Reducer をかけ、サンプリングレートを12bitや22kHz程度まで落とします。
さらに、Wow & Flutter(ワウフラッター) 系のプラグイン(RC-20 Retro Colorなど)を通して、テープの揺らぎを加えることで、チルでノスタルジックなビートが完成します。CR-78のシンプルな音色は、こうした汚し系エフェクトとの相性が抜群です。
Synthwave / Vaporwaveの場合 :
深く広がり成分の多いChorus(コーラス) をハイハットやシンバルにかけてみてください。
キラキラとした広がりが生まれ、ネオンサインが輝くような80sフューチャリスティックな雰囲気が一瞬で演出できます。
CR-78 VSTを使いこなすためのヒント
最後に、CR-78 VSTをDAWワークフローの中で最大限に活用するためのちょっとしたヒントをお伝えします。
DAWとの連携:オートメーションでグルーヴを作る
CR-78は「ループ素材」ではありません。VSTインストゥルメントとしての最大の武器は、DAWのオートメーション機能を使えることです。
ピッチのオートメーション : フィルの場面でタムのピッチを徐々に下げていくと、アナログシンセのようなユニークな効果が得られます。
ディケイのオートメーション : ハイハットのディケイ(音の長さ)を、曲の展開に合わせて徐々に開いていく(長くしていく)ことで、ビルドアップのような高揚感を作り出すことができます。これはハイハットのオープン/クローズを切り替えるよりも、より有機的でスムースな変化になります。
エフェクトセンドのオートメーション : スネアのリバーブセンド量を、サビの最後の一発だけ極端に上げる「ダブ(Dub)」的な手法も、CR-78の乾いた音色には非常に効果的です。
オリジナル実機との違いとVSTならではのメリット
「実機の音が一番良い」というのは真実の一面ではありますが、制作の現場においてはVSTの方が優れている点も多々あります。
ノイズがない : 実機はS/N比が悪く、どうしても「サーッ」というホワイトノイズが乗ります。VSTならクリアな無音状態から音を立ち上げられます(あえてノイズを足すこともできますが)。
リコール(再現)が完璧 : 実機のようなアナログ機材は、気温や湿度、機嫌によって音が変わりますが、VSTならいつでも同じ音を完璧に再現できます。プロジェクトを再開した時に「あの時の音が出ない!」と嘆くことはもうありません。
マルチアウトが可能 : キック、スネア、ハイハットをDAWの別々のトラックに立ち上げ、それぞれに最適なEQやコンプレッサーをかけることができます。これはミックスダウンのクオリティを劇的に向上させます。
結論:時を超えたリズムを、あなたの手に
Roland CR-78は、単なる懐古趣味の機材ではありません。そのシンプルゆえに力強いサウンドは、複雑化しすぎた現代の音楽制作において、改めてその価値が見直されています。
「音数が少なくても、説得力がある」。 それがCR-78の魔法です。
今回ご紹介したVSTプラグインを使えば、その魔法を数千円〜数万円、場合によっては無料で手に入れることができます。もしあなたが、自分のトラックに「何か」が足りないと感じているなら、あるいは、もっと有機的で温かみのあるリズムを探しているなら、ぜひ一度CR-78のサウンドを試してみてください。
その小さく愛らしいリズムボックスが奏でるビートは、きっとあなたの音楽に新しい生命を吹き込んでくれるはずです。さあ、DAWを立ち上げ、1978年のグルーヴを2025年の音楽に刻み込みましょう。
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