世界中のレコーディングスタジオを見学して回ったとしたら、ある興味深い共通点に気づくはずです。マイクやプリアンプの好みはエンジニアによって千差万別ですが、コンプレッサーのラックには、必ずと言っていいほど「あの青い箱」が鎮座しているのです。
Tube-Tech CL 1B。
デンマークが生んだこの光学式(オプト)コンプレッサーは、特にボーカル・プロセッシングにおいて不動の地位を築いています。カニエ・ウェスト、ビリー・アイリッシュ、アリアナ・グランデ……彼らのヒットソングのボーカルは、例外なくこの青い回路を通過しています。
そして、その実機のサウンドを公式に、かつ最も深く理解しプラグイン化したのが、Softube Tube-Tech CL 1B Mk IIです。今回は、単なるアップデートの枠を超えて生まれ変わったこの「王者のプラグイン」について、その魅力と使いこなし術を徹底解説します。
目次
なぜプロは「CL 1B」を選ぶのか? ボーカル・コンプの絶対王者
コンプレッサーには、FET(1176など)やVCA(SSL、dbxなど)といった種類がありますが、なぜCL 1B(Optoタイプ)がこれほどまでにボーカルに使用されるのでしょうか。
「Opto(光学式)」ならではの、聴感上自然なリダクション
最大の理由は「不自然さのなさ」です。CL 1Bは、入力信号を光に変換し、その明るさをセンサーで読み取ってゲインを制御するという、アナログならではの方式を採用しています。
この仕組みは、電気的な反応速度よりもわずかに遅く、独特の「タメ」を生み出します。これが人間の聴覚にとって非常に音楽的に響くのです。針が大きく振れるほど深くリダクションさせても、音が潰れて平坦になるのではなく、まるで歌手がマイクとの距離をコントロールしているかのように、自然に音量が整えられます。
カニエからアリアナまで:モダンポップスの音はこの青い箱で作られている
モダンなポップスやヒップホップでは、ボーカルはオケの誰よりも手前にいなければなりません。しかし、アタックを潰しすぎると覇気がなくなり、リリースが早すぎると息継ぎが耳障りになる。
CL 1Bは、この相反する課題を魔法のように解決します。Opto方式特有の柔らかさがありながら、Attack/Releaseタイムを可変できるため、1176のようなキレのあるコンプレッションも、LA-2Aのようなゆったりとしたレベリングも、一台で完結できる(しかも、どちらよりもハイファイな音で)。この万能性こそが、トップエンジニアたちが手放せない理由です。
Softube Mk IIへの進化:単なる高画質化ではない「音」の再構築
Softubeは長年CL 1Bのプラグイン(Legacy版)を提供してきましたが、Mk IIのリリースにあたり、彼らは既存のコードを流用しませんでした。ゼロから、完全に作り直したのです。
Mk I vs Mk II:ゼロからモデリングし直された「空気感」の違い
Mk I(Legacy)も素晴らしいプラグインでしたが、Mk IIと聴き比べると、その差は歴然です。Mk IIは、高域の伸びやかさと、リダクション時の低域のふくよかさが劇的に向上しています。
特に違いが出るのが、アタックを最速にした時の挙動です。Mk Iでは少し音が詰まるような感覚があった場面でも、Mk IIは実機同様に、パツンという心地よい倍音を伴って反応します。これは、最新の測定技術によって真空管とトランスフォーマーの挙動をよりミクロなレベルで解析した結果でしょう。
サイドチェイン・ローカット搭載で「低音に反応しすぎない」コンプへ
機能面での最大のアップデートは、サイドチェイン・ローカットフィルターの搭載です。
ボーカル録音において、「ポップノイズ」や「胸の共鳴音」といった不要な低音成分がコンプを過剰に動作させてしまうことがあります。Mk IIでは、コンプの検出回路から80Hzまたは220Hz以下の低音を除外することができます。これにより、低音には反応せずに、声の「オイシイ部分(中高域)」だけを狙ってコンプレッションすることが可能になりました。モダンなミックスには必須の機能です。
世代切り替えスイッチ(Generation Switch)で新旧の味を使い分ける
面白いのが、プラグイン下部にある「Generation Switch」です。これを切り替えることで、新しいMk IIのサウンドと、慣れ親しんだLegacy(Mk I)のサウンドを瞬時に行き来できます。
「昔のセッションファイルを開いた時の互換性」のためだけでなく、「あえて少しレンジの狭い、Lo-Fiな質感が欲しい」という時にLegacy版を選ぶ、といったクリエイティブな使い分けも可能です。
誰でもプロの音になれる「魔法の設定」
CL 1Bは、ツマミの位置さえ覚えれば誰でも80点の音が出せる「失敗しないコンプ」です。しかし、100点を目指すなら、いくつかのセオリーを知っておく必要があります。
アタックとリリース操作の基本(Fixed/Manualモードの秘密)
CL 1Bには3つのモードがあります。
- Fixed: アタック1ms、リリース50msに固定。最も速く、リミッター的な挙動。
- Manual: ユーザーがノブで時間を設定。
- Fixed/Manual: 両方のイイとこ取り。
初心者はまず「Fixed/Manual」モード(ツマミを真ん中へ)を試してください。このモードでは、アタックはFixed(速い)で突発的なピークを抑えつつ、リリースはManualで設定した時間に従ってゆっくり戻る、という複雑な挙動をします。これにより、「アタックは逃さないが、余韻は殺さない」という理想的なボーカル処理が自動的に叶います。
ボーカルチェーンの王道:1176(ピーク処理)→ CL 1B(レベリング)
プロの鉄板テクニックとして、CL 1Bの前段にFETコンプ(1176など)を薄く掛ける方法があります。
- まず1176で、突発的に飛び出したピークだけを素早く叩く(リダクションは-1〜-2dB程度)。
- 整った信号をCL 1Bに入力し、全体を滑らかに持ち上げる(リダクションは-3〜-5dB程度)。
この「役割分担」により、CL 1Bの負担が減り、驚くほど透明で、かつ圧倒的な音圧のボーカルトラックが完成します。Softube版なら、このチェーンをDAW上で何度でも再現できます。
まとめ:迷ったらこれを挿せ。それが最短の近道
Softube Tube-Tech CL 1B Mk IIは、決して安いプラグインではありません。しかし、その価値は価格を遥かに上回ります。
なぜなら、これを手に入れるということは、過去30年間のヒットチャートを支えてきた「正解の音」を手に入れることと同義だからです。「コンプの設定がうまくいかない」「ボーカルがオケに埋もれる」と悩む時間は、この青い箱をインサートした瞬間に終わりを告げます。
迷ったら、とりあえずCL 1Bを挿す。それだけで、あなたのミックスはプロフェッショナルの領域に一歩足を踏み入れることになるのです。
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