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Arturia CP-70 V 徹底レビュー:伝説の「電気グランド」が現代に蘇った理由

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目次

ピアノでもエレピでもない。Arturia CP-70 Vが生み出す「バンドで埋もれない」最強の音

「バンドでピアノを弾いているけど、ギターやドラムの音に負けてしまう…」 「バラードでピアノを入れたいけど、普通のグランドピアノだと綺麗すぎて、なんか味気ない…」

そんな悩みを抱えるキーボーディストやDTMクリエイターに、一つの解決策を提案します。

それは、「電気グランドピアノ(Electric Grand Piano)」という選択肢です。

1970年代後半から80年代にかけて、スタジアム級のロックバンドや、最先端のフュージョンバンドのステージには、必ずと言っていいほど「ある楽器」が置かれていました。 ヤマハの「CP-70(およびCP-80)」です。 グランドピアノの弦とハンマーを持ちながら、マイクではなく「ピックアップ」で音を拾うその楽器は、アコースティックピアノのような繊細さと、エレキギターのような力強さを兼ね備えていました。

そして2024年、Arturiaがついにその伝説の楽器を「V Collection」に加えました。 それが「Arturia CP-70 V」です。

「え、今さら昔のピアノ?」と思うなかれ。 実は今、Vulfpeckなどのモダン・ファンクや、ネオソウル、そしてLo-Fi Hip Hopの界隈で、この「CPサウンド」が猛烈に再評価されているのです。 本記事では、この少しマニアックな、しかし一度ハマると抜け出せないCP-70 Vの魅力を、実機の特徴から具体的な音作りまで、1万文字を超えるボリュームで徹底的に解説します。

CP-70 V






Arturia CP-70 Vとは?:「ピアノ」でも「エレピ」でもない伝説の電気グランド

70年代後半〜80年代を席巻した「持ち運べるグランドピアノ」

まず、オリジナルのCP-70について少し触れておきましょう。 当時、グランドピアノをライブハウスやスタジアムに持ち込むのは、運搬コストやPA(音響)の面で極めて困難でした。 そこで開発されたのが、CP-70です。 弦の張力を支えるフレームを分割可能にし、音を電気信号に変えることで、ハウリングを起こさずに大音量で鳴らすことを可能にしました。 TOTO、Billy Joel、U2、そして日本では小室哲哉氏(TM NETWORK)など、数え切れないほどのアーティストが愛用しました。

弦をハンマーで叩き、ピックアップで拾うハイブリッド構造

CP-70の構造は非常にユニークです。 ローズやウーリッツァーといった「エレピ」は、金属片やリードを叩きますが、CP-70は本物の「ピアノ線」を叩きます。だから音のアタック感はピアノそのものです。 しかし、その振動を拾うのはピエゾピックアップです。これにより、アコースティックピアノ特有の「箱鳴り(ボディの共鳴)」が少なくなり、代わりにタイトで、中域が強調された「電気的な」音がします。 Arturia CP-70 Vは、この物理的な構造をモデリング技術で完璧に再現しています。 サンプリング音源では表現しきれない、低音弦の「ベロン」という唸りや、高音弦の金属的な響きが、指先に吸い付くように反応します。

V Collectionへの追加で注目される「再評価」の波

長らくArturiaのピアノ音源といえば「Piano V」一択でしたが、あえてCP-70を単独の製品としてリリースした点に、Arturiaの本気度が伺えます。 これは単なる懐古趣味ではありません。 現代のDAW中心の制作環境において、クリアすぎるデジタルピアノ音源に対する「揺り戻し」として、人間味のある、少しザラついた音が求められているからです。 CP-70 Vは、そのニーズに完璧に応える「汚し」や「歪み」を含んだ、キャラクターの強いピアノ音源なのです。

なぜCP-70が必要なのか?普通のピアノ音源にはない「太さと抜け」

バンドアンサンブルでギターに負けないアタック感

普通のグランドピアノ音源をロックバンドの中に混ぜると、どうしても音が細く聴こえたり、リバーブで奥に引っ込んでしまったりしがちです。 しかしCP-70 Vは違います。 元々が「エレキギターと同じ土俵で戦うため」に作られた楽器なので、アタック(音の立ち上がり)が非常に鋭く、音が前に飛んできます。 EQで無理にハイを上げなくても、ただ和音を弾くだけで、轟音ギターの壁を突き抜けて聴こえてきます。 「ピアノを目立たせたいけど、音量は上げたくない」というミックスの悩みに対する、最強の回答がこれです。

グランドピアノよりも低域がスッキリしている理由

アコースティックグランドピアノは、低音が豊かに響きすぎることがあり、キックやベースと帯域が被って(マスキングして)しまうことがあります。 一方、CP-70はボディの共鳴が少ないため、低音が驚くほどタイトです。 ベースラインを左手で弾いても、ドラムのキックやベースギターの邪魔をしません。 この「スッキリとした低域」は、特にリズムが複雑なファンクや、低音が重要なダンスミュージックにおいて、ミックスを劇的に楽にしてくれます。

コンプをかけた時の「パツン!」という気持ち良い打鍵音

CP-70 Vの真骨頂は、コンプレッサーを深くかけた時に現れます。 アコースティックピアノにコンプをかけると、不自然な空気感が持ち上がってしまうことがありますが、CP-70は電気信号なので、非常に綺麗に、かつ音楽的に潰れます。 「パツン!」「コーン!」という、特有のパーカッシブなサウンド。 これこそが、往年のAORやシティポップで聴ける「あのピアノの音」なのです。 Arturia版には優秀なコンプレッサーが内蔵されており、ワンノブでこの「パツンパツン」な音を作ることができます。

実機の制約からの解放:エイジング機能と高度な弦モデル

チューニングの狂いやハンマーの硬さを自在に調整

実機のCP-70は、弦長が短いため、低音部のチューニングが合わせにくく、倍音が濁りやすいという欠点がありました(インハーモニシティ)。 しかしArturia CP-70 Vでは、その「狂い」をあえて再現することも、現代的に補正することも可能です。 「Age」ノブを回せば、メンテナンスが行き届いていない個体のような、ホンキートンクピアノに近いヨレた音になり、「Tuning」を完璧にすれば、クリスタルのように澄んだ音になります。 楽曲の雰囲気に合わせて、ピアノの状態をタイムスリップさせることができるのです。

本物にはない「ベースブースト」や「トレブル」のEQ調整

さらに、Arturia独自の拡張機能として「Advanced」パネルがあります。 ここでは、実機にはついていない3バンドEQや、ピックアップの位置調整などが可能です。 特に「Bass Boost」は強力で、これを上げると実機では出せないような重低音が加わり、まるで9フィートのコンサートグランドのような迫力を出すこともできます。

ベロシティレスポンスの最適化で弾き心地を改善

「実機は鍵盤が重くて弾きにくい」というのも有名な話ですが、ソフトウェアなら関係ありません。 自分のMIDIキーボードに合わせてベロシティカーブを調整できるため、繊細なピアニッシモから、弦が切れそうなフォルテッシモまで、意図した通りのダイナミクスで演奏できます。

これぞ「エレピ」の醍醐味:内蔵ペダルエフェクトの活用術

CP-70 Vには、足元に並べるコンパクトエフェクターを模した「ペダルスロット」と、スタジオ機器を模した「ポストエフェクト」が搭載されています。

定番の「コーラス」で80sバラードの広がりを演出

CP-70と言えばコーラスエフェクト、というくらい定番の組み合わせです。 内蔵の「Stereo Chorus」や「JUN-6 Chorus」をかけると、音が左右に広がり、キラキラとした光沢感を帯びます。 コードを白玉で弾くだけで、80年代のトレンディドラマのエンディングテーマのような、切なくてゴージャスな空間が生まれます。 アコースティックピアノにコーラスをかけると違和感が出ることが多いですが、CP-70には魔法のように馴染みます。

「トレモロ」でローズのような揺らぎを加える

エレピ(Rhodesなど)の代名詞であるトレモロも、CP-70にかけると面白い効果が得られます。 アタックはピアノなのに、サスティン(余韻)が揺れているという不思議なサウンド。 これを深くかけると、アンビエントやポストロックに使えるような、幻想的でサイケデリックな音になります。

ディストーションでロックなリフを刻む

ギターアンプを通したような歪みサウンドも得意です。 Ben Folds Fiveのような、ピアノが主役のロックバンドにおいて、ピアノを歪ませてベースの役割を兼任させるような使い方ができます。 通常のピアノ音源を歪ませると音が割れて汚くなるだけですが、CP-70 Vは芯がしっかりしているため、歪ませても音程感が失われません。

ジャンル別:CP-70 Vが輝く楽曲スタイル

80sシティポップ・歌謡曲のバッキング

最近リバイバルヒットしている「シティポップ」を作るなら、CP-70 Vは必須アイテムです。 キラキラしたシンセブラス、カッティングギター、そしてCP-70のリズミカルなバッキング。この3つがあれば、トラックの土台は完成したも同然です。 プリセットの「80s Ballad」などを選び、セブンスコードを刻むだけで、竹内まりやのような世界観が一瞬で立ち上がります。

ネオソウル・ファンクのグルーヴィーなコード弾き

VulfpeckのJack Strattonが愛用していることでも知られるように、現代のファンクシーンでもCP-70は重要です。 コンプを強めにかけて、スタッカート気味にリズムを刻むと、ギターのカッティングのようなパーカッシブな効果が得られます。 Rhodesよりも輪郭がハッキリしているため、リズムの「食い」や「ハネ」が明確に伝わり、バンド全体のグルーヴが増します。

モダン・ハウスの明るいピアノリフ(M1ピアノとは違う味)

ハウスミュージックのピアノといえばKORG M1が有名ですが、CP-70もまた違った良さがあります。 M1よりも生々しく、かといって普通のピアノほど重くない。 この絶妙なバランスは、Tropical HouseやNu-Discoのような、爽やかでオーガニックなダンスミュージックに最適です。 高域のEQを上げて、ディレイを薄くかければ、夏フェスの夕暮れに似合う最高のピアノリフが作れます。

まとめ:懐古趣味だけじゃない。現代のポップスにこそ必要な音

「普通のピアノ」に飽きた時の強力な選択肢

Arturia CP-70 Vは、決して「古い音」を出すためだけのツールではありません。 むしろ、現代の過密なミックスの中で、ピアノの存在感を際立たせるための「新しい武器」です。 普通のピアノ音源を使っていて、「なんか抜けないな」「平凡だな」と感じた時、トラックをCP-70 Vに差し替えてみてください。 それだけで楽曲全体が引き締まり、プロフェッショナルな艶(つや)が出ることがあります。

まずはプリセットを弾いて、その「音の太さ」を体感せよ

文章でいくら説明しても、あの「弦を引っぱたく」ような独特のアタック感は伝わりきらないかもしれません。 ぜひ、デモ版や製品版で、実際に鍵盤を叩いてみてください。 特に低音域を強く弾いた時の、「ゴーン!」ではなく「ビヨーン!」と唸るような倍音感。 これを感じた瞬間、あなたはもうCP-70の虜になっているはずです。

クラシックな見た目に反して、中身はロック魂の塊。 そんな「野獣のようなピアノ」を、あなたの制作環境に迎え入れてみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

櫻井徳右衛門のアバター 櫻井徳右衛門 音楽プロデューサー・ミュージシャン

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VSTレビュー公開記事・触ったDTMプラグインは1,000個以上を超える。
ギタリスト・作曲家でもあり、音楽リスナーであることから聞くのも好きでイヤホン・ヘッドホンも集めはじめる。

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