


シンセのプリセットを何十個も試したのに、曲で使う音が決まらない。ベースを作ろうとしていたはずが、気付けばフィルターやLFOを触って終わる……。
DTMを続けていると、音色を作れる自由さが、かえって作曲の勢いを止める場面があります。特にEDM、エレクトロ、シティポップ、ゲーム音楽のように、ベース、リード、アルペジオ、効果音をシンセで組み立てる曲では、音作りの判断が遅いだけで1曲の完成が遠のきます。
そんな悩みを抱えたときに候補へ入るのが、RolandのSYSTEM-1です。

まず結論から言うと、SYSTEM-1は「複雑な合成方式を覚え込む前に、音の変化を手で確かめながら、曲で役立つベースやリードを組み立てたい人」に向いたソフトシンセです。Super Saw、FM、Vowelなどを含む12種類のオシレーター、独立したローパス/ハイパスフィルター、動きを作りやすいアルペジエーターを備えているため、音色の役割を決めてから迷わず調整へ入れます。
SYSTEM-1は、RolandのAIRAシリーズから生まれた4ボイスのシンセサイザーです。ハードウェア版は2014年に登場し、ソフトウェア版ではDAW上の音源として使えます。
音の中核になるオシレーター(音の元になる波形を作るパーツ)は2基。Saw、Square、Triangleといった基本波形だけでなく、Super Saw、Super Square、FM、Vowel、同期やクロスモジュレーションを使う波形まで選べます。サブオシレーターとノイズも加えられるため、細い単音から太いベース、動きのある効果音まで守備範囲が広い設計です。
一方で、何でも自動で完成させる音源ではありません。最大同時発音数は4音です。壮大なコードを何層も重ねる用途や、生楽器に近い音を作る用途より、曲の中で役割がはっきりしたシンセ音を、手早く作るための音源として捉えると分かりやすいです。
ベースを鳴らしたら低域の太さを確認する。リードを鳴らしたら、フィルターを開いたときの前に出る感じを確認する。アルペジオを鳴らしたら、リズムが曲を動かすかを確認する。SYSTEM-1は、シンセ音色を要素へ分けて考える練習にも向いています。
SYSTEM-1の機能を並べる前に、音作りで時間を失いやすい理由を整理します。
「良い音」を探し始めると、プリセットは無限に近く感じます。ただ、曲に必要なのは良い音色ではなく、イントロを支えるパッド、ドロップ前に緊張感を作るアルペジオ、キックと住み分けるベースのような役割です。
役割を決めずに探すと、派手なプリセットばかりが魅力的に聴こえます。曲へ入れた途端に主張が強すぎたり、低域が混ざったりして、選び直しになります。
複雑なモジュラーシンセやFMシンセは魅力的です。ただし、音が変わる理由を把握しないまま触ると、偶然うまく鳴った設定を再現できません。
最初に覚えたいのは、オシレーターで音の素材を選び、フィルターで明るさを決め、エンベロープ(音の立ち上がりと消え方を決める設定)で弾き心地を作る流れです。SYSTEM-1は主要な調整が前面へ並んでいるため、この順序を目と耳で追いやすいです。
コードやベースを1つ置いただけでは、打ち込みの曲は平らに聴こえがちです。音数を増やせば解決すると思うと、ミックスが窮屈になります。
曲の展開に必要なのは、音数よりも時間変化です。フィルターの開閉、LFOによる揺れ、アルペジオのパターン変化、ディレイの残響を使うと、少ないトラック数でも展開を作れます。SYSTEM-1のアルペジエーターとScatterは、反復フレーズへ偶発性を足すために役立ちます。
SYSTEM-1は4ボイスです。1つの音色で複雑なテンションコードを長く保持するより、モノフォニックに近い感覚でベースやリードを担当させたり、短いコードやプラックを重ねたりする使い方が合います。
大きなパッドや分厚いコードを主役にしたい場合は、より発音数の多いポリフォニックシンセと組み合わせるほうが制作しやすいです。SYSTEM-1は、アレンジの前へ出る音、動きのある音、低域の核を受け持たせると良さが分かります。
シンセのプリセットを比較するときは、音量をそろえたうえで、カットオフ(フィルターが通す周波数帯域を決める値)を動かしてみます。フィルターを閉じたときにどれだけ細くなるか、開いたときに耳へ刺さりすぎないか、レゾナンスを上げたときに曲で使えそうかを聴きます。
SYSTEM-1はローパスフィルターとハイパスフィルターを独立して持ちます。低域を残して明るさを削る、または高域を残して不要な低域を片付けるといった、ミックスを想定した調整を1台の中で進められます。
ベースとして作った音へ、リードの明るさやパッドの広がりまで入れようとすると、どの役割にも中途半端になります。
SYSTEM-1で音色を作るときは、最初に「キックの下を支えるベース」「サビへ入る前のアルペジオ」「主旋律の隙間を埋めるプラック」のように役割を1つだけ決めます。決めた役割に不要な帯域やエフェクトを減らすと、音作りとミックスが同時に進みます。
SYSTEM-1のオシレーターは、基本波形に加えてSuper Saw、Super Square、FM、FM+Sync、Vowelなどを選べます。さらに、2基のオシレーターへサブオシレーターとホワイトノイズ/ピンクノイズを足せます。
Super Sawは、複数のノコギリ波が重なったような広がりを作りやすく、トランスやダンスポップのリード、ユニゾン感のあるコードに向きます。FMは、硬さや金属感を含む音色を作りやすく、短いプラック、ベル寄りのリード、デジタル感のあるベースへ使えます。Vowelは、人の声の母音を思わせるような変化を足したい場面に便利です。
音色の出発点を波形の段階で選べるため、何もない状態から難しいルーティングを組む必要がありません。曲の役割に合う質感を選び、フィルターとエンベロープで整える流れが基本になります。
ローパスフィルター(LPF)は高域を抑え、音を丸くするために使います。ハイパスフィルター(HPF)は低域を抑え、キックやベースとぶつかる帯域を減らすために使います。
SYSTEM-1はLPFとHPFを別々に操作できます。リードを作るならHPFで低域を整理し、LPFのカットオフをオートメーションしてサビで開く。ベースを作るならHPFをほぼ使わず、LPFとレゾナンスで前へ出るポイントを探す。パッドや効果音なら、HPFを上げて低域を空け、リバーブやディレイで奥行きを足す。
フィルターは音を派手に変えるためだけの機能ではありません。曲の中で使える位置へ音色を運ぶための調整です。SYSTEM-1では音作りの途中で低域整理まで進められるため、後からEQだけで無理に直す回数を減らせます。
SYSTEM-1のアルペジエーターは6種類のタイプと6種類のステップ設定を持ちます。Scatterを使うと、アルペジオの鳴り方に変化を加えられます。さらに、ノートだけでなくカットオフやレゾナンスのようなシンセパラメーターもアルペジエートできます。
1小節のフレーズを何度も繰り返すとき、MIDIノートを細かく書き換えなくても、Scatterの深さやフィルターの動きで展開を作れます。ビルドアップ前ではフィルターを閉じてScatterを少し深くする。ドロップではScatterを戻し、フィルターを開く。リズムを変えずに緊張感を作る方法として使いやすいです。
偶然性を強くしすぎると、曲のフックまで不安定になります。Scatterは主旋律より、イントロの反復音、ブレイクの効果音、裏で鳴るアルペジオから試したいところです。
LFO(Low Frequency Oscillator)は、ゆっくりした周期で音のパラメーターを揺らす機能です。SYSTEM-1ではLFOをテンポへ同期でき、ピッチ、フィルター、アンプの変化へ使えます。
たとえば、1/8や1/16でフィルターを揺らせば、一定のコードでもリズミカルな動きが生まれます。サンプル&ホールドやランダムの波形を使えば、規則的すぎないモジュレーションも作れます。
仕上げにはディレイ、リバーブ、Crusherを使えます。ディレイは短いプラックやリードへリズムを足す役目。リバーブは奥行き。Crusherはビットを荒らしたような質感を加え、Lo-Fiやゲーム的な効果音へ寄せる役目を持ちます。外部エフェクトを増やす前に、SYSTEM-1だけで音の役割を固められるのは制作中に助かります。
OSC 1をSaw、OSC 2をSquare寄りにして、サブオシレーターを薄く混ぜます。アンプのアタックは短く、リリースは次の音へ少しつながる程度に設定。LPFで高域を少し抑え、キックとぶつかる場合だけ低域を整理します。
サビで音を大きくする前に、フィルターを少し開き、サブの量を調整します。低域を足しすぎず、ベースの中域が聞こえる状態を作ると、スマートフォン再生でもラインが追いやすくなります。
Super SawかSquareを起点にして、HPFを上げて低域を空けます。1/16のアルペジオを選び、テンポ同期LFOでフィルターを小さく揺らします。ブレイクではLPFを閉じ、リバーブとディレイを少し増やす。ドロップ直前にLPFを開くと、同じフレーズでも前へ進む感覚を作れます。
Scatterは深くしすぎず、曲の後半だけ薄く加えるのがおすすめです。フレーズの規則性を残したまま、展開だけ増やせます。
FMかVowelを選び、エンベロープのディケイを短めにして、音を鳴らした直後に消える形を作ります。HPFで低域を削り、Crusherを少量だけ足すと、輪郭のあるデジタル質感が出ます。
効果音として使うなら、ピッチへLFOを浅くかけたり、ノイズを混ぜたりして変化をつけます。派手な音を単体で作るより、画面転換やフィルインの瞬間に短く鳴らすほうが、曲全体の印象を変えやすいです。
SYSTEM-1は、巨大なシンセエンジンを持つ音源のように、何百もの複雑な機能を掘るタイプではありません。音作りの基本要素が前面にあり、オシレーター、フィルター、エンベロープ、モジュレーションを順番に触りながら、音が曲で機能する場所を探せます。
特に良いと感じるのは、Super Sawのような即戦力の音を入口にしながら、FMやVowel、Scatterで少し変わった方向へ進めるところです。プリセットを選んで終わるのではなく、曲ごとに必要な明るさ、太さ、動きを足せます。
──個人的には、シンセの操作を覚えたい初心者と、作曲中にベースやアルペジオを素早く立ち上げたい人の両方へ合う1本だと思われます。派手な音色数より、手を動かした分だけ音の役割が理解できる点がSYSTEM-1の強みです。
使えます。オシレーター、フィルター、エンベロープ、LFOという基本的な音作りの流れを、主要なノブから確認しやすい設計です。最初はSawかSquareを選び、フィルターとエンベロープだけでベースやプラックを作るところから始めると理解しやすいです。
幅広いポリフォニック音色、複数のモデル、より多くの役割を1台で担いたいならSYSTEM-8が候補になります。ベース、リード、短いコード、アルペジオのように、シンセの基本操作を使って素早く音を作りたいならSYSTEM-1が扱いやすいです。
トランス、EDM、ダンスポップ、エレクトロ系のリードや、ユニゾン感のあるコードに向いています。広がりが大きいぶん、ボーカル曲ではHPFやEQで低域と中域を整理し、主旋律の場所を空けると混ざりやすいです。
使えます。SawやSquareにサブオシレーターを加え、フィルターとアンプエンベロープを調整すれば、エレクトロ系、シンセポップ、ダンスミュージックのベースを作れます。低域だけを増やすより、中域の輪郭を残すと曲の中で聴き取りやすくなります。
使えます。ソフトウェア版はDAW上で独立したシンセ音源として使えます。ハードウェアのSYSTEM-1やSYSTEM-1mを所有している場合は、エディターやライブラリアンとして双方向に連携できる点も魅力です。
Roland SYSTEM-1は、音作りの自由度へ振り回されず、曲で役立つシンセ音を早く決めるためのソフトシンセです。
太いベースならオシレーターとサブを選ぶ。抜けるリードならフィルターで明るさを決める。展開が足りないならアルペジエーター、Scatter、LFOで変化を加える。作る順番が見えれば、音色作りは作曲を止める作業ではなくなります。
4ボイスという制限はあります。ただ、制限があるからこそ、SYSTEM-1へ「何を担当させるか」を決めやすいです。シンセの基礎を身につけながら、すぐ曲へ入れられるベース、リード、アルペジオ、プラックを増やしたい人にとって、SYSTEM-1は即戦力な音源の強い選択肢になります。
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