ソフトシンセは便利になった。
音は綺麗。
プリセットも多い。
モジュレーションも何でもできる。
でも、綺麗すぎる音ばかり並べると、曲の中で妙に存在感が薄くなることがある。
もっと少し粗くて、硬くて、クセがあって、でも不思議と耳に残るシンセが欲しい。
そんなときに刺さるのが、80年代のデジタル・アナログハイブリッド系シンセだ。
Cherry Audioの Ensoniq ESQ-1 Synthesizer は、1986年に登場したEnsoniq ESQ-1をソフトウェアとして再構築したシンセプラグイン。
デジタル波形の独特な輪郭と、アナログフィルターの丸みが混ざる、あの時代らしい質感をDAW上で扱える。

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Ensoniq ESQ-1 Synthesizerとは
Ensoniq ESQ-1 Synthesizerは、Cherry AudioによるEnsoniq ESQ-1のソフトウェア版だ。
オリジナルESQ-1は、1986年に登場したポリフォニック・ハイブリッドシンセ。
基本構造は、デジタル波形をオシレーターとして鳴らし、アナログローパスフィルターで加工するタイプ。
今の感覚で見ると、いわゆる“全部アナログ”のシンセではない。
逆に、完全にクリーンなデジタルシンセでもない。
デジタル波形の硬さと、アナログフィルターの粘りがぶつかる。
Ensoniq ESQ-1の魅力は、デジタルとアナログの中間地点にある。
Cherry Audio版では、オリジナルの32波形をCreative Technologyから正式にライセンスし、CEM3379アナログレゾナント・ローパスフィルターのサウンドと挙動もモデリングしている。
単なる見た目だけの復刻ではなく、音の出発点である波形とフィルターのキャラクターを重視した設計だ。
オリジナル32波形を収録
Cherry Audio版の大きなポイントは、オリジナルESQ-1の32波形を使えること。
波形は大きく次のカテゴリに分かれる。
- Basic and Noise
- Samples
- Additive/Formant
- Band Limited
ESQ-1の面白さは、波形の名前だけ見るとシンプルなのに、鳴らすと妙にクセが出るところだ。
アナログシンセのノコギリ波や矩形波とは違い、デジタル由来のザラッとした輪郭がある。
ただし、現代のウェーブテーブルシンセのように滑らかで派手に変化する質感とも違う。
音の芯が少し粗く、ローファイ寄りで、でもシンセとしての存在感が強い。
シンセベース、ベル、パッド、ブラス、デジタル鍵盤、SF系の効果音に向いている。
3オシレーター構成が強い
Ensoniq ESQ-1 Synthesizerは、1ボイスあたり3基のデジタルオシレーターを使える。
3つの波形を重ねられるため、単純な1波形シンセよりも音の厚みを作りやすい。
たとえば、低域に太い基本波形。
中域にデジタル感のある波形。
高域にフォルマント系やノイズ成分。
低域、中域、高域で役割を分けて重ねると、1音でもかなり複雑なキャラクターになる。
さらに、オシレーターシンクやAMにも対応している。
金属的な倍音、攻撃的なリード、ベル系の音色を作るときに使いやすい。
綺麗なシンセパッドだけでなく、少し荒れたリードや不穏なシーケンス音を作れるのが魅力だ。
CEM3379フィルターのモデリング
ESQ-1の音を語るうえで外せないのが、アナログフィルター。
Cherry Audio版では、Curtis CEM3379のアナログ・レゾナント・ローパスフィルターをモデリングしている。
基本は4ポール 24dB/octのローパス。
さらにソフト版では、2ポール 12dB/octのローパス、ハイパス、バンドパスも追加されている。
デジタル波形をアナログフィルターへ通すと、音の角が丸くなる。
でも完全に丸くなりすぎない。
波形の粗さが残ったまま、フィルターで音楽的に整う。
デジタル波形とアナログフィルターの組み合わせが、ESQ-1らしい質感を作っている。
現代のシンセで似た構造を作ることはできる。
ただ、最初からデジタル波形とアナログフィルターの相性を前提にした音源は、やっぱり手触りが違う。
32ボイス×2レイヤーの現代仕様
オリジナルESQ-1は8ボイスのシンセだった。
Cherry Audio版は、ステレオ・デュアルレイヤー構造で、1レイヤーあたり最大32ポリフォニックボイスに対応している。
さらに、キーボードスプリットやスタックレイヤーにも対応。
2つのレイヤーを同時に鳴らし、各レイヤーにシンセシス、モジュレーション、パターン、エフェクトを設定できる。
2レイヤー構造はかなり大きい。
オリジナルの雰囲気を再現するだけなら、8ボイスでも十分かもしれない。
でも、現代の制作では分厚いパッド、レイヤーされたベース、動きのあるシーケンス、空間系エフェクト込みの音色が欲しくなる。
Cherry Audio版は、ビンテージの音色を現代の制作量に耐える形へ拡張している。
モジュレーションがかなり強化されている
Ensoniq ESQ-1 Synthesizerには、4スロットのモジュレーションマトリクスが搭載されている。
ソースは41種類、デスティネーションは85種類。
クリックで割り当てられる設計なので、昔のハードウェアのように小さな表示を追いかける必要がない。
オリジナルESQ-1は、当時としてはかなり分かりやすいUIを持っていたシンセだった。
ただ、ハードウェアの小さなディスプレイとボタンで音作りをするのは、現代のDAW環境に慣れた人には少し重い。
Cherry Audio版は、Play、Edit、Modulation、Envelopes、Sequencerの5セクションに整理されている。
信号の流れやモジュレーションの関係が見やすくなっているため、ESQ-1の複雑な音作りへ入りやすい。
MPEとポリフォニックアフタータッチ対応
Cherry Audio版は、チャンネルアフタータッチ、ポリフォニックアフタータッチ、MPEにも対応している。
MPEとポリフォニックアフタータッチ対応は、現代版としてかなり重要。
ESQ-1系の音は、音色の輪郭が強い。
ESQ-1系の音は輪郭が強いため、MPEやポリフォニックアフタータッチで1音ごとに表情を付けると、かなり生々しくなる。
パッドの一部だけフィルターを開く。
コードの上声だけビブラートを深くする。
リードの音程を指先で揺らす。
古いデジタル波形の質感に、現代の演奏表現を足せる。
MPE対応は、単なる復刻シンセではなく、今の演奏環境で使うためのアップデートだと思う。
16×4ポリフォニック・ステップシーケンサー
Cherry Audio版には、レイヤーごとに同期可能な16×4ポリフォニック・ステップシーケンサーが入っている。
ノートとモジュレーションのパターンを作れ、トランスポーズやHumanizeにも対応。
4つのマクロモーション、33プリセットも用意されている。
ESQ-1はもともとワークステーション的な性格も持っていたシンセだ。
ワークステーション的な文脈を、現代的なステップシーケンサーとして使えるのは面白い。
シンセベースの反復フレーズ。
シンセウェーブ系のアルペジオ。
不穏な映画音楽的パルス。
ゲーム音楽っぽい動きのあるパッド。
反復フレーズや動くパッドの音作りに向いている。
20種類のエフェクト
Cherry Audio版には、3つの独立したエフェクトチェーンが搭載されている。
各レイヤー用とグローバル用に分けて使える。
収録エフェクトは20種類。
- BBD Flanger
- Compressor
- Digital Delay
- Digital Reverb
- Distortion & EQ
- Dual Delay
- Dual Ensemble
- Dual Phaser
- Envelope Filter
- Flanger & Chorus
- Galactic Reverb
- Lo-Fi
- Lushverb
- Ring Modulator
- Seven Band EQ
- Spring Reverb
- Tape Echo
などが使える。
ESQ-1らしい乾いたデジタル感を残すのも良い。
逆に、Lo-FiやTape Echo、Galactic Reverbで現代的な空間へ広げるのも良い。
内蔵エフェクトがあることで、プリセットを選んだ時点で曲に置きやすい音になりやすい。
プリセットは350種類+オリジナル40パッチ
Cherry Audio版には、350種類のプロ設計プリセットが収録されている。
さらに、オリジナルESQ-1ハードウェアの40ファクトリーパッチも含まれる。
合計で約400プリセットというボリュームだ。
初めてESQ-1系の音を触る人は、まずプリセットを一通り鳴らすだけでも方向性がつかめる。
シンセベース、ブラス、ベル、パッド、リード、シーケンス系、効果音。
音色のクセがはっきりしているので、プリセットから曲のアイデアが出やすいタイプだ。
SysEx互換もマニアには嬉しい
Cherry Audio版は、オリジナルESQ-1のSysExファイルに対応している。
個別パッチやパッチバンクのドラッグ&ドロップ読み込み、ハードウェアからMIDI経由での取り込みに対応。
さらに、オリジナルハードウェアと互換性のあるSysExパッチファイルを書き出せる。
実機ESQ-1を持っている人、昔のパッチ資産を持っている人にはかなり嬉しいポイント。
単なるソフト音源としてだけでなく、実機との橋渡しとして使える。
どんなジャンルに向いている?
Ensoniq ESQ-1 Synthesizerは、綺麗な万能シンセというより、キャラクターで勝負するシンセだ。
向いているジャンルはかなり広い。
- シンセウェーブ
- ニューウェーブ
- インダストリアル
- ダークポップ
- ゲーム音楽
- Lo-Fi
- アンビエント
- 映像音楽
- レトロフューチャー系BGM
特に、現代的に綺麗なシンセだけでは味気ない曲に合う。
粗い波形。
硬いアタック。
少し不穏なデジタル感。
アナログフィルターで整う中低域。
80年代ハイブリッドシンセの質感が欲しいなら、かなり良い選択肢になる。
急がなくていい人
逆に、Ensoniq ESQ-1 Synthesizerが最優先ではない人もいる。
超現代的なEDMリード、派手なウェーブテーブルモーフィング、リアル系ピアノやストリングスを求める人には向かない。
ESQ-1系の良さは、少し古くて、少し粗くて、少し硬いところにある。
ESQ-1系のクセを曲の味として使えるかどうかが大事だ。
万能性だけを求めるなら、別の総合型シンセのほうが使いやすい場面もある。
メリット
- オリジナル32 ESQ-1波形を正式ライセンスで収録
- CEM3379アナログフィルターの挙動をモデリング
- 3オシレーター構成で複雑な音を作りやすい
- 1レイヤー最大32ボイス、2レイヤー構造で現代的に使える
- MPE、ポリフォニックアフタータッチに対応
- 16×4ポリフォニック・ステップシーケンサーを搭載
- 20種類のエフェクトを内蔵
- 350プリセット+40オリジナルパッチを収録
- ESQ-1 SysEx互換に対応
デメリット
- 現代的で透明な万能シンセを求める人にはクセが強い
- ESQ-1らしい粗さを活かせないと古臭く感じる可能性がある
- 機能が多いため、最初はプリセットから触るほうが分かりやすい
- 実機再現だけを期待すると、現代拡張部分の多さに驚くかもしれない
まとめ
Cherry Audio Ensoniq ESQ-1 Synthesizerは、単なる懐古シンセではない。
オリジナル32波形、CEM3379フィルター、3オシレーター、SysEx互換でESQ-1らしさを押さえつつ、32ボイス×2レイヤー、MPE、ポリフォニックシーケンサー、20エフェクトで現代制作へ拡張している。
魅力は、綺麗すぎないこと。
デジタル波形のザラつき。
アナログフィルターの丸み。
80年代ワークステーション的な音の存在感。
──現代の曲に、少し古くて強いシンセの輪郭を足したい。
そんな人には、かなり面白い1本だと思う。

















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